「わたしのこと、好き? 本当のことを言って。そうでないと、何も答えられないの……」――上司につれられた城ノ原財閥のお屋敷で、橘洸介は十六歳になったばかりの妖子と引き合わされる。彼女に惹かれる己を自覚しながら、異様な雰囲気と噓のような妖子の言葉を信じきれないまま、その日洸介と妖子は夫婦となった。俗世と断絶された由緒正しい屋敷には、時代から取り残されたような「戻り部屋」と称される仕置部屋があり、妖子は
苦労して、売れっ子のイラストレーターとなった沙季は、四十六歳になっていた。出席した挿絵画家の祝賀パーティの二次会は銀座の一流クラブ。全員の支払の半分を持つほどには成功していた──まだ売れないころ、小さなバーでアルバイトしていたときに、深い関係を結んだ男・新羅がそこに、偶然ひとりグラスを傾けていた。十五年目の再会。出会いは二十三年前にもなる──二次会のメンバーの目を避け、ママに頼んで、そっと渡しても
凌霄花。橙色で漏斗状のこの花は──太腿を押し開かれた奈月で、そこに躰を潜り込ませている揚羽蝶は、奈月の蜜を味わっている吉武だ──独身OL時代に旅先で知り合った妻子持ちの吉武との五年間は奈月に、強烈な潤いの時を与えてくれた。吉武への思いを持ち続けたまま山瀬とは結婚した。が、凌霄花の蜜を吸う揚羽蝶を見て三日後に、吉武に電話をかけた。すべて了解の上で付き合い、裏切りも約束もなにもない別れから知らずに疼い
大地震の翌日、散乱した部屋の中から見つかった古い手紙の束。それはかつて紗絵子に想いを寄せていた年上の男からの恋文だった。二十代半ばの紗絵子にとって、十一歳年上の男、久留須はただ会社の雇い主の親友でしかなかった──結婚、離婚を経て、いまは独り身となって震災で心細い思いを抱いた紗絵子は、次第に過去の想い出に誘われる。優しく、上品で熱烈な手紙をくれた久留須──しかし、十五年の歳月は穏やかだった男を、知ら
知り合いの展覧会の二次会から逃げ出した三十九歳のイラストレーター雪菜は、以前住んでいた阿佐ヶ谷の行きつけの店「バー ぼけ」に同じイラストレーターの春佳と足を運んだ。ママの千江はサスペンス作家の立科一平の奥方──雪菜は立科と、作家と挿絵画家という関係の中、二回だけ唇を合わせたことがあった。千江に対する後ろめたさと仄かな期待…。しかし、その日はなにごともなく、思いを断ち切ろうと思ったその翌日、立科から
十五年ぶりに陶工・悠吾との思い出の地、唐津を訪れた三十七歳の紫歩は、偶然に導かれるように悠吾が描いた塩沢紬の帯と出会う。女主人と語り合う紫歩の前に現れた四十五歳の悠吾は、紫歩を強引に誘う。悠吾の母の反対を理由に結婚を諦めた紫歩。紫歩が黙って去っていった理由を知りたかった悠吾。それぞれ別の相手と結婚した二人が、十五年間の埋み火をふたたびぶつけ合った…。官能文芸誌「悦」掲載の、大人の情愛短編傑作!【著
夫・広幸の三回忌を終えた三十代半ばの春菜は、数年ぶりに生まれ育った地に足を運んだ.向かった先は幼馴染の拓磨の家。そこには幼い頃と変わらずダリアの花が咲き誇っていた。拓磨の母親に花をもらおうとインターホンを押すと、そこには四十半ばとなった拓磨の姿があった。「お袋が亡くなる前、ダリアをもらいに来る人がいるから、その人が来るまでは大事に育てろと言われたんだ」昔から決まっていた居場所で抱き寄せられた春菜は
染色工芸店の女主人・香七子、二十六歳上の夫を持つ紗和美、飛鳥寺で運命的な出会いをした千香子、旅館の未亡人女将・華夜子、妻に先立たれた男の前に現れた綾子……。楚楚とした風情の内に、淫欲が渦巻く端麗にして濃厚な官能短篇五篇!
「ああ」と、別れた女の顔になって、北斗の手の中で人形が悶えた。「突き抜けそう」昨夜の女の顔で喘いだ。「いや~」昔の女の顔で白い喉をのけぞらせた…。企業戦士はもうやめた。坂巻北斗は故郷福岡にUターン。博多人形師の修業の傍ら、こっそり淫靡な人形作りに励みだした…
大学准教授夫人の綾崎乃梨子には秘密があった。この三年間、二十六歳年上の陶芸家と逢瀬を重ね、至福の性に酔っていた。娘の家庭教師を務める大学生・悠斗がひそかに乃梨子に心を寄せ、外出時に尾行されていることなど知るよしもなかった。
七人の女性が繰り広げる幸せ探しの性愛物語。二十九歳のOLが初めて悦びを得た不倫愛、離婚した三十六歳の喫茶店ママが大学生に求められるままに応じる母性愛、そして三十八歳の生花店主が半身不随の夫の前で見せる玩具性戯…。満たされる悦び、届かぬ想い、歪んだ欲望にも身…
「私はあなたにとって女じゃないの?」紗夜子が心の堰をきって、二十五歳上の緑川に抱かれて十四年が経っていた。週末ごとに睦みあう二人。「紗夜子のここはどんどんいやらしくなっていくのに、可愛いままだ」。緑川の指が、口が彼女を愛でる。「そこ……好き」。紗夜子は羞恥…
それはまさに鴇色の喘ぎだった。古都・鎌倉の豪邸に住まう鷹峰の前に、三十数年前に別れざるをえなかった想い人・桔梗と瓜二つの女性が現れる。聞けば、桔梗はすでに他界し、自分は娘の夜絵だという。彼女を見て、心を騒がす鷹峰。その夜、夜絵は鷹峰の寝室へ忍んできた。「…
夫婦で訪れた奥飛騨の温泉宿に、かつての恋人が訪ねてきた。罪の意識にさいなまれながら、男の愛撫に応える女……。「雪舞い」他、女流性愛小説界の旗手が、四季の移ろいの中で燃え上がる男と女の性の深淵を情感豊かに紡いだ傑作集。
読み方こそ違っているが、同じ「薫」という名を持つ高校の同級生に思いを寄せていた石戸薫は、十三年ぶりに再会し人妻となっていた相手から、意外な事実を告げられる(「カオルとカオリ」)など、第一線の人気作家による書き下ろし官能アンソロジー。
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